シリーズ「サーフトリップのすすめ」No. 10
コロナウィルスによるパンデミックもどうやら収束の兆しが見えてきたかな?
入国がほぼ不可能だったインドネシアが、条件付きで観光客を受け入れるようになったのは、サーファーにとって良い知らせだ。ようやくコロナ前のように、インド洋のパーフェクトウェイブを楽しめるようになりつつある。サーファーが少ない今がチャンスとサーフトリップを計画している人も多いだろう。
さて、「サーフトリップのすすめ」というテーマでコラムを連載中だが、前回は「波旅の掟」国内編という記事を書いた。そこにはサーフポイントが抱えているさまざまなトラブルを軽減したいという意味があった。これは経験の浅いビジターサーファー向けに書いたものだが、反響が大きく「よくぞ言ってくれた」という声を多くの方からいただいた。
「波旅の掟」を書いた目的はサーフポイントでのトラブルを減らすためだ。世界中、どのサーフポイントでもビジターとロコの間でトラブルが絶えないが、その原因の多くが、認識不足のビジターが、状況を把握できないままにトラブルを起こしているケースが多いからだ。ということは、サーフトリップの注意点をビジターに教えてあげれば、たいていの人は守るだろうし。トラブルが起きなければ、ロコもビジターを排除しない。(と思う)「波旅の掟」国内編はそのような意図があった。
ということで今回はインド洋編。海外編としたかったが、場所によって事情が異なるし、インドネシア編とするとモルジブなどが入らなくなるのでインド洋編とした。その内容は国内編とは少し異なっていて、危険回避が中心となっている。ワールドクラスの波はなかなか手強く、メイクするにはそれなりの修行が必要だ。それでもチャレンジしたいと願っているサーファーに少しでも役に立てたらうれしい。
掟、その一。『パッコンボードこそ最強』
サーフトリップに最適なサーフボードは何か?目的地にもよるけれど、まず1本目は日本で使いなれているボードを持っていくのがいいだろう。さらにもう一本となると何を選ぶか?数センチ長めで幅の狭い、インドネシアなどのパワフルな波に対応するピンテールも良いかもしれない。
だが、筆者ならば、「初中級者ならばパッコン製(工場で成形して作られるサーフボード)のロングかセミロングを一押し」と答えるだろう。「えっパッコン!?」と驚く人もいるかもしれない。パッコン型のサーフボードはフレックスが硬いし見た目もダサい、と敬遠するサーファーも多いが、強度が高いから折れにくく、日焼けにも強いというメリットがある。
なぜロングを?というのには理由がある。サーフトリップでは良い波が何日も続くことがあるからだ。そうなってくると、技がどうのこうのというよりも体力勝負となる。君は1日2ラウンドを何日続けられるだろうか?もし、パーフェクトブレイクを200~300mもロングライドしてから、波を待つサーファーが黒い点のように見えるピークまで、パドルバックをしなければならないとしたら?それを1日10回、いや20回続けるとしたら?「パドルキツー 5’8”じゃあ短くね?」となる。でしょう?
浮力が十分にあるサーフボードは、波が良く海が空いているときには大きなアドバンテージだ。ロングボードとショートボードでは1日の疲労度には格段の差がある。いきなりロング、とはいわないまでも、「タカヤマのスコーピオンみたいなボードがあったらいいのにな~」と思った経験が筆者にはある。
パッコンもロングボードも嫌だ。という人には、いま流行っているミッドレングスがオススメだ。以前はファンボードとかビギナーボードと言われていたタイプを、新しいジャンルとしてトレンドセットされたのがミッドレングスだ。一般的な6フィート前後のショートボードに、プラス1フィート分の浮力を与えたボードと解釈もできる。大きな波にも対応できるし、波にパワーがあれば、むしろ長めのサーフボードが乗っていてちょうどいいということにもなる。
アドバイスとしては、ミッドレングスを日本で使って慣れておくことだろう。パドルが楽になりテイクオフも早くなるが、ターンは重たくなるだろう。しかしボードを加速することができればターンは軽くなるし、レールを使って大きな弧を描く練習もできる。それが海外の波で役に立つ。旅先で波がサイズアップしたときにそれを使ってみると、同じサーフボードとは思えないほどレスポンスが良くなって驚くだろう。
とにかく「浮力があってパドルが楽なボード」が、サーフトリップにはいろいろな意味において必携だ。PU製のサーフボードにこだわらないならば、パッコン型(成形)のロングボードやセミロングが良い。サーフトリップのためにわざわざ買うのもどうかな~と考える人も多いかもしれない。パッコンを持っていないならば現地で借りるという作戦もプランBとして考えておいてもいい。
ちなみにロングボードは小型の飛行機には積めない場合もあるから注意したい。またここでいうロングボードはハイパフォーマンス系を指す。
掟、その二。「海外ではシャイになるな」
海外に行けば日本人も外国の人。とはいうものの、いろいろな国から集まってきたサーファーと、波の争奪をするのはなかなかハードルが高いな、と感じる日本のサーファーは多いと思う。日本人は基本的にシャイなので、ずうずうしくなれないのだ。
ピークで待つサーファーのなかへ入っていくのは、それなりの緊張感がある。しかも、君が乗る最初の1本目は注目される。どのくらいサーフィンができるかと、君は周囲から値踏みされるのだ。「こいつ、うめえじゃん!」となればセットの波を乗るルーティンに参加できるし、逆にパーリングでもやってしまったら、「お呼びじゃないよ」と外されてしまう。このへんは国内も同じだけどね。
そんな人にアドバイスしたいのが、国内編でも書いたように、積極的にあいさつを交わすというものだ。「知らない人とは挨拶をしない」というのは日本では常識でも、海外では非常識となる。タイミングを見計らって、アイコンタクトからの会釈だけでもいい。
まずは陸上で観察し、パドルアウトしてからも、ピークから離れたところで、サーファーたちをチェックする。誰が上手くて、誰が下手か、波のブレイクはどうか?インサイドでバレルになるか?水深は浅いか?そんなときに波に乗ってパドルバックするサーファーが近くを通ったら、軽めに声を掛けてライディングを褒めてみるのもいい。
とはいうものの、海の中での駆け引きは、時と場合によって大きく異なる。だから空気を読んで臨機応変に対応するしかない。上記に書いたことがよいアドバイスになったり、効果が無かったりすることはあるだろうが、シャイにならずに挨拶をするとうまくいく場合が多い。誰とも目を合わせず黙って浮かんでいるだけでは、波はなかなか回ってこない。
筆者の経験上、こちらから挨拶をしても無視をするサーファーは、波をシェアする余裕がないと判断できる。もしくはレーシスト(差別主義者)のような最悪な連中も現実として存在する。しかし、そういう連中はごく少数、ほとんどのサーファーはフレンドリーで、お互い旅の途中ということもあるから、助け合おうとする気持ちも生まれやすい。一言の声かけで友情が結ばれることだってある。
掟、その三。『病院は遠く、救急車は来ないと思え』
インドネシアのような開発途上国では、怪我や病気をしたらかなり危険だと認識しよう。ハワイやオーストラリアなどは、ライフガードがいる、救急車がある、ヘリコプターがある、総合病院がある。でもインドネシアだとそのどれもが無い、無い、無い。バリも、やっと大きな病院ができたようだが、すこし前までは木綿糸で縫合するような医療体制だった。
目的地に到着し、さてサーフィンとなったとき「もしここで怪我をしたら病院までどのくらいの時間がかかるか」とパドルアウトする前に考えてみよう。例えば、ジャカルタまで行かないと治療できないような怪我を負ってしまったら?何日かかるだろうか?救急車も無ければ、ヘリも飛んでこない、自力でサバイブするしかない。
不衛生な環境では、かすり傷でさえ恐ろしい結果を招く。さらに、コロナウィルスよりも恐ろしいのがマラリアだ。蚊が媒介する伝染病で、高熱を引き起こし、ときには死に至ることも珍しくはない。とにかく蚊に刺されないようにすること。オージーたちがロンTやロングパンツでディナーを食べるのは、蚊に刺されないようにするためだ。(レストランではテーブルマナーという場合も有)
リーフブレイクでサーフすることが予想できる場合は、ヘルメット、リーフブーツ、ショートジョンなどを用意した方が懸命だ。また海底が砂だからと甘く考えると、大きな事故を引き起こす場合もある。ブレイクの予測がつかないビーチブレイクは、日本のそれとは異なって予想がつかないほどヘビーなブレイクだ。YouTubeでプロサーファーの映像を見ていると簡単そうにサーフしているが、現実は甘くない。
まとめ
海外でのサーフトリップは、日頃のサーフィンの集大成だ。良い波を探し当て、忘れられない一本をゲットしてもらいたいと筆者も思う。しかし「良い波」にたどり着くには、乗り越えなければならない壁があり、ウェーブプールのようにはいかないのが現実だ。ペラペラのショートボードでは波を捕えられなかったり、波は良くても混雑していたり、リーフでザックリやってしまったら、そこで旅は終わってしまう。「波旅の掟」を参考にしてトラブルを回避し、一本でも多くグッドウェーブをゲットしてほしいと筆者は願っている。
(李リョウ)