国内、海外と様々な場所へ旅をして見つけた共通点。それは、どこへ行っても「暮らし」があるということ。人それぞれ「暮らし」のスタイルは様々。国や地域が違えばその場所にあった暮らしがあり、また一軒家、アパート、バンなどその人のライフスタイルに見合った暮らし方がある。旅先で出会った素敵な暮らしをしている人たちを紹介していこう。
従来の家の概念を覆すような大きな窓ガラスに囲まれ、四季や天気など自然の移り変わりを最大限に感じるお家に暮らすのは心地よさをテーマにしたアパレルブランド Kiira のディレクターを務める加藤 一美さんとそのご家族。神奈川県葉山町。都内からこの土地へ5年前に引っ越してきたという。お家に一歩入ると太陽が降り注ぎ、ポカポカと暖かい。お隣さんがいることを忘れられるほど緑に囲まれて心地の良いお家だ。
都内から里山の生活へ
「生まれも育ちも世田谷なので、まさかこんなに自然に囲まれた土地に暮らすことになるとは、全く想像していませんでした。引っ越し先を探している時に、夫の『とりあえず海の近くも見に行ってみよ う』という提案で訪れたこの土地にここだ!と感じて決めました。東京との暮らしに比べるともちろん不便なこともいろいろとありました。でもやはり住めば都で私たちがこの土地の住環境に順応して、無いものは無いと割り切れるようになった気がします。この大きな窓を通して見える、太陽の動きがなす光と影の移り変わりや、暗くなれば月や星を眺めるなど、1日を通して時間の流れを楽しみながら常に自然と一緒に暮らしている感覚が好きです」と一美さん。今年敷いたばかりという芝生の上でのんびりするのも気持ちがよさそうだ。
一日を通して日当たりが抜群のリビング。キッチンから見えるお庭とリビングのこの眺めがお気に入りだという。家族が思い思いの時間を過ごしているのが見渡せる一美さんのお気に入りの場所。
「ここは元々里山を開拓した場所。その背景を踏まえてこの土地を購入した際、山を再生するというコンセプトがありました。住環境には自然との一体感を求めて大きなガラスで囲まれた家にしました。目隠しにもなり、当初のコンセプトに近づくように家の周りにはオージープランツを中心に植栽してあります。あえて剪定をせずに育てて、5年経ってようやく植物も茂ってきて森の中に住んでいるような感覚があります。ここに引っ越してから太陽の動きが感じられるようになり、自然のサイクルで生活ができるようになりました」と話してくれたのは夫の剛大さん。
既製品に頼らず全てにこだわったお家
このリビングのソファもオーダーメイド。家の細部に至るまでなるべく既製品は使わず、こだわりがたくさん詰まったお家だ。高い天井もこの家の開放感のポイント。お家の中に置かれているグリーンは頂き物が多いそうだが不思議とお家の雰囲気にマッチしている。
リビングで、一際存在感を放っているこのスピーカーもこのお家を設計した設計士さんの手作りだそうだ。
「設計士さん曰く、音をバランスよく出すためにはフォンに対する箱の大きさなど全てにおいて数学的な要素があるらしいんです。フォン本体は購入してそれ以外は設計士さんが全て計算し尽くして組み立てた作品です。音量が足りなかったので下にはウーファーも足してもらいました。休みの日には好きな音楽をかけて家族で踊ったりもします(笑)」
スピーカーの存在感は大きいながらもグレーブルーという色のチョイスでリビングに静かに佇み、落ち着いた雰囲気を作り出している。
都内から葉山に引っ越して5年目の加藤さんご一家。一美さんがディレクターを務めるブランド
「Kiira」のご友人向けの展示会のために自宅を解放したり、よく友人も家に遊びにきて一緒に夕食を食べたりするそうだ。
「家のすぐ裏には無農薬の畑でお野菜を作るおじいちゃんとおばあちゃんがいて新鮮な野菜が身近になりました。これもこの土地に決めた理由の一つです。この場所に暮らしているせいか以前より季節のお野菜を食べるようになった気がします」
一美さんのデザインするお洋服は女性らしいラインを残しつつ、とっても着心地が良く優しい。着心地の良いお洋服は居心地の良い家にもよく似合う。加藤さん一家のライフスタイルは一見、こだわりが強そうに見えて実は上手に流れに身を任せ、状況や環境の変化をポジティブに受け止めている印象があ る。人生を楽しく生きるには常に移り変わる環境や状況を受け入れながら順応して自分の価値観で良し悪しを決めつけないこと、そして必要以上に周りに求めないことなのかもしれない。次回は自然と隣合わせに暮らす加藤さんご一家の旅や、自然との遊び方、子育てのヒントについてご紹介しよう。
Photo: Miyu Fukada