プロサーファーで自らのビキニブランドLueur.Swimを運営する野呂玲花さんと、同じくコンペティターとして国内外の試合を多忙に周る田中大貴さん夫妻、そしてもうすぐ1歳になる娘のケイナちゃん。3人が暮らしているのは、千葉北にある日本屈指の波が立つ海岸から歩いて5分。サーファーにとって最高の立地だ。空や海を連想させる爽やかなスカイブルーの平家は、広々としたウッドデッキと全開にできる窓が気持ち良い。外シャワーも完備してあり、こちらもまたサーファーにとっては最高の家だった。
両親もサーファーだという野呂さんは大阪出身。中学時代からサーフィンをはじめ、卒業と同時に本格的にサーフィンの道を目指し、波を求めて四国に移住。その後はサーフィンと語学のためにカリフォルニアにも3年間住み、帰国後千葉に越してきた。
一方、福岡出身の田中さんは成人してから千葉に移る。もともと成田空港も近いという理由から遠征の行き帰りに千葉にステイしサーフィンすることが多かった。最初は福岡と千葉の二拠点生活をしていたという。
2人がそれぞれ本格的に千葉に移住したのは、やはり「波が良い」から。サーフィンのレベルも高く、若い選手が多く住んでいるため刺激になるというのも理由だった。
「毎日サーフィンできる環境というのが一番です。海が近いだけじゃなく、人も良い。移住者が助け合いながら生活している地域という感じ。この千葉での生活が気に入っています」と2人。
自転車や原付バイクにボードを乗せて海に向かう人や、海沿いの道に並ぶサーフショップのサインに気持ちが高まる。車通りの少ない道ではキッズがスケートを楽しみ、海上がりに広い庭でBBQをする家族の姿も。海を愛する人が住みやすい、まさにサーフタウンのムードがあちこちに感じられる。
まだ小さい赤ちゃんのいる現役プロサーファーの2人の生活とはどんなものなのだろうか。ライフスタイルを聞いてみた。
「まず大輝が早朝に起きてサーフィンをするのが日課。彼が戻ってきて朝ごはんを食べたら私がサーフィン。夕方にも波次第で交代でサーフィンかトレーニングをしています。2人とも試合の時には親に付いて来てもらって、ヒートの間だけ見てもらう。母が近くにいるから安心なんですけど、できる限り順番に2人で見るようにしています」
田中さんは子供が産まれてから、試合への取り組み方も変わったという。
「ケイナがいるから、試合前、よりがんばろうという気持ちが高まります。子供がいることで使える時間が限られているので、前よりもON/OFFがうまくできるようになりました」
野呂さんは去年11月に出産し、産後1ヶ月半でサーフィンを再開。さらにその1ヶ月後にはすでにコンペに復帰していた。実は妊娠中にも大きいお腹を抱えながらショートボードを軽快に乗りこなす美しい姿が、地元サーファーの間で話題になっていた。
また、サーフィンと並行して自身の水着ブランドもプロデュースしている。実家は何代も続く刺繍屋さんで、お母さんがミシンを4台使い、一点一点ハンドメイドで作る完全受注生産のビキニ。無駄のないサスティナブルな生産方法と、自分好みにアレンジもできるオーダー制、そしてサーフィンに最適な機能性を携え、多くのファンを抱えている。
さらに来年には自宅近くにジムスタジオをオープン予定。ヒップアップトレーニングなどができる、女性専用のクラスも立ち上げるそうだ。
妊娠・出産を経ても自分のリズムを大切にし、夢を追って進み続ける姿はたくさんの女性の励みになっているはず。子供を産んだって、やりたいことを諦める必要はない。
「プロとしてはあと長くて2、3年できたらいいかな。引退したあとはブランドとジムの運営にさらに集中しようと思っています。子供との時間も楽しみ。サーフィンとかスケートボードとか、本人のやりたいことに時間を費やしてあげたいんです」と野呂さん。
プロサーファー2人の間に生まれたサラブレッドのケイナちゃんも、一緒にビーチに行ったりスイミングスクールに通い、水に慣れる練習を始めているという。
「せっかくこの素晴らしい環境にいるので、できればサーフィンはやってもらいたい。CTサーファーになってくれたら嬉しいな、と夢見ています。『プロサーファーはお金が稼げないなら子供にはなってほしくない』という話もよく聞きますけど、お金儲けじゃなくそれ以上にサーフィンから得たものが2人ともたくさんあるので、そういう部分を教えていきたいです」。
親子3人でサーフィンする姿が見られる日が、今から楽しみだ。
Photo:Norihiro Takeda, Toshizou.K(Reika surfing shot)
(Alice Kazama)