レイキセラピストとして活躍する奥田なつ海さんは、全国を旅するように暮らすロガー。
旅に出たことでサーフィンに出合い、サーフィンを始めたことで、新しい自分と出逢うことができたというなつ海さんにとって、旅のメリットとは何か。移住生活のきっかけや、旅から学んだ生き方などを聞いてみた。
「今は毎日が幸せ」。移住で手にしたウェルビーイング
「ほんの数日前までメキシコを旅していました。サユリタに2週間とサラディタに4週間いて、その間はずっとメローな波に乗れて。あそこはほんとに天国みたいな場所！」
夏休み中の子どもさながらに目を輝かせるのは、レディスロガーの奥田なつ海さん。国内外を旅するように暮らす彼女は、これまで多くのサーフタウンを訪れ、ファンサーフしてきた。
宮崎県在住の彼女は実のところ、70人の生徒を抱える人気のレイキセラピストでもある。その腕を頼ってなつ海さんのもとにはひっきりなしに人が訪れ、悩み事や心身の不調を相談しにくる。「仕事場は自宅だったり、ステイ先だったり、その時々で変わる」というが、サーフィンをする余裕などあるのだろうか。
「オンとオフを分けてるというより、どちらもライフワークなので生活から切り離す必要がなくて。忙しいときは早朝に1ラウンド、日中にレイキヒーリングの講義、日暮れ前にもう1ラウンドします。夜にはクタクタになってすぐに寝てしまうから、とってもウェルネスですよ（笑）」
なつ海さんが海のそばの暮らしをするようになったのは、看護師を退職した24歳の頃。まだサーファーになる前のことで、きっかけは一人旅で訪れた鎌倉の海だった。
「きらきらと光る海に何だか魅力を感じて、勢いで移り住んでしまいました」と本人は語るが、この移住があったからこそ、今のなつ海さんがあるといってもいい。
サーフィンを始めたのは26歳。友人に8フィートのロングボードを借り、由比ヶ浜の海で初めて波にテイクオフした。身体が自然に溶けていくような不思議な感覚におそわれ、この快感は何だろう、と夢中になった。それからは「波乗りをもっと上達させたい」という一心で移住生活に突入。インドネシアやオーストラリア、ニュージーランドのポピュラーなサーフタウンを旅して、その土地のストリートを歩き、その土地の波に乗った。目的地は「シンプルな理由で選ぶことがほとんどだった」という。
「いい波が割れていて、いい気の流れる場所が好き。今は好きなサーフィンができて、いい友人に囲まれて、毎日がハッピー。一日の終わりに『今日もありがとう』という気持ちでベッドに横たわります」
「ただ……」となつ海さんは言葉を継ぐ。「以前はちょっとだけ自分に自信がなくて。メンタルもへこみやすいほうだったんです」
旅から学んだのは、人を肯定する生き方
今のチャーミングな笑顔からは想像もつかないが、なつ海さんにもハッピーとはいえない時期があったようだ。
「あの頃は看護師を辞めたばかりで、将来のこととか、やっていることに自信が持てなくて……」
そんな彼女を勇気づけてくれたのは、ニュージーランドの旅で出会ったサーファーたちだったという。なつ海さんが訪れたのは、マウント・マウンガヌイ。美しいビーチに面する、のどかな海辺の町だ。
「そこで仲良くなったのが、素敵なマインドを持った女性ロガーでした。彼女たちはどんな個性も否定しないで認めてくれる子たちで、ある日、私がアップダウンの激しい性格なことをポロッとこぼしたら、『何がいけないの？ それでいいじゃん！』と肯定してくれたんです。『メンタルが上下するのはエモーショナルなだけ。ナツミはそのままでいい』という彼女たちの言葉に、『そうだったのか』と目から鱗が落ちました。サーフィンはもちろんだけど、今の私を形作ってくれているのは、旅でのそういう出会いなんです」
旅に出たことでサーフィンに出合い、サーフィンを始めたことで、新しい自分と出逢うことができた。では改めて、なつ海さんにとって旅のメリットとは何だろう？
「どんな場所なのか、どんな出会いがあるのか、まったく分からないところです。そういう旅のなかでいろんな価値観に触れることで、人を受け入れる器が広くなったというか。固定観念をパッと取り払って、残ったものに目を凝らせるようになりました。そうした経験は、私のライフワークであるレイキヒーリングにも生きています」
では旅のデメリットは？ という質問には、「うーん、今は感じないなぁ」とキッパリ。「あえてあげるなら……家族と長いあいだ離れるのは少し寂しいです。けれど、私が旅で得た気づきや体験をシェアすることが家族のためにもなっていて。モノには必ず“ふたつの顔”があって、それをどう捉えるかは自分しだいだと思っているので、マイナス面はあまり意識していないかな」
旅の仲間を訪ねる“再会”のサーフトリップ
湘南・宮崎・奄美大島・インドネシア・オーストリア・ニュージランド・メキシコ。これまでなつ海さんが旅の目的地や移住先に選んできたのは、いつも海沿いの街だった。
「だいたい私のトリップは、旅先で仲良くなった人の地元に遊びにいくことから始まります。そこが居心地よかったり、いい波に乗れたりするとそのまま移住してしまうこともあるのだけど（笑）」
そう言うと、ころころ笑うなつ海さん。何というフットワークの軽さ！ とはいえ知らない土地で暮らしていくには、それなりの旅支度や心の準備が必要なのでは。そんな疑問にも、なつ海さんは丁寧に答えてくれた。
「私は直感で動くタイプだから、家とか車とか、移住先のことをほとんど決めないんです。長旅でもそうなので、ボードは持っていかずに現地調達することが多くて。でも安全面に関してはちゃんと調べていくので、無鉄砲なわけではないですよ（笑）。とにかく大事なのは、困ったら声を上げること。そうしたら誰かが助けてくれるから。私も誰かが困っていたら同じように手を差し伸べるつもりです」
次はオーストラリアとニュージランドに飛ぶ予定だというなつ海さん。まだ見ぬグッドスウェルに胸を躍らせる彼女は、いつか見た海のようにきらきらとした眼差しで、人生という旅を楽しんでいるようにみえた。
「次回の旅のテーマは“再会”です。これまでの旅で知り合った人たちを訪ねるサーフトリップ。最高の旅になる予感がして、今から胸がドキドキしています。どこかの海で会えたら、一緒にサーフィンしてください！」
PROFILE
奥田なつ海
1992年、三重県生まれ。宮崎県在住。2年間の看護師生活のあと、現在は国内外のサーフタウンを渡り歩きながら、レイキヒーリングをライフワークにしている。従来のセラピーにカウンセリングやマインドケアを取り入れた「アライメント レイキ」を主宰。人が自分らしく、ありのままに生きる素晴らしさを説いている。
Instagram
Photo：dillphotodelic
（Ryoma Sato）
