日本の匠×サスティナブル|フリーサーファー高貫佑麻のDIYキャンピングバス

日本を代表するフリーサーファーのひとり、高貫佑麻さん。クラシックなログからミッドレングスやフィッシュ、アブノーマルボード、サーフマットまでさまざまなツールを駆使して波乗りを楽しでいる。
そんな彼が一昨年、念願だったキャンパーを手に入れた。中古のマイクロバスを多くの人の協力を得ながら改装。
サーフィンと自由な暮らし、そして日本文化を愛する彼らしいこだわりが詰まった世界にひとつのオリジナルキャンピングバスだ。


7ヶ月かけて自作。夢のバスが完成

「もっと日本を知りたい、日本各地の波に乗りたい」

それまで多くの海外を旅してきた高貫さんが抱いたこの想いが、キャンパーの自作に至る道のりの始まりだった。

実現するための手段はキャンピングカーしかないと考えた。しかし、ショートからロングまで乗りこなす彼にとっては、市販のキャンパーではボードの出し入れがしづらい。そこで思い切って自作を決意した。マイクロバスをベースにしたのは、車内で立ち上がることができるから。また壊れた時に修理がしやすく、自らのアイデンティティでもある国産車にもこだわった。

探していると、四輪駆動で後ろが観音開きドアというバスを見つけた。オーナーは北海道だったが、躊躇せず見に行くことに。すると奇跡的に足回りは綺麗でエンジンも良好。ビビッときた高貫さんは、その場で購入を決めた。

改造は福島県の建物解体会社『吉勝重建』の社長が協力を申し出てくれた。以前から高貫さんが“自作キャンパーで日本を旅したい”という夢を語っていた相手で、社長自身も熱心なサーファーだったのだ。北海道から福井県にバスを運び、約7ヶ月間かけて作り上げた。

「作業にあたっては『吉勝重建』の自工部の野村さん、店舗などのデザインを手掛ける『サンテン・コーポレーション』の佐々木さん、サーフィン仲間の和貴くんという方たちが親身になって手伝ってくれ、SDGsのパートナーシップとして多くの企業に廃材やリサイクル品の提供など協力してもらって作り上げることができました」

できあがったキャンピングバスは他にない完全オリジナルに。車体のアイコンとなっている木板には廃材を利用し、アースカラーのペイントは断熱塗料を使用。車内の空間もうまく設計されており、広々とした寝床とボード置き場に加え、細かいアイテムの収納スペースも確保。ルーフにはポップアップ式のテントまで設置されている。見どころがありすぎるキャンパーだが、中でも特にこだわった部分を聞いてみた。

「日本を旅するバスなので和の要素を取り入れたかった僕に、浅草橋で111年以上の歴史をもつ『金井畳店』さんが協力してくださり、車内に本物のイグサの畳を敷いてくれました! 1歳の息子の愛丸が畳の上でのびのびと遊べて、就寝時にはその上に布団を敷いて家族3人で寝ます。また、佐々木さんが展開可能なデザインにしてくれたので、中央の畳を外せばテーブルにも早変わりするんです。
あとは暑い夏も寒い冬も旅をしたかったので、断熱にはかなり気を遣いました。
“ガイナ”という断熱塗料を車の外側にも内側にも使用し、断熱材は“パーフェクトバリア”というシックハウス対策のモノを選び、身体にも環境にも優しい仕様になっています」

日本の魅力を再発見する旅へ

このキャンパーでの最初の旅は、福井の工場を出発して京都、湘南、福島、青森、北海道を巡る日本列島縦断サーフトリップ。その様子は日本のサーフカルチャーに焦点を当てたDisney+オリジナルドキュメンタリーシリーズ『Chasing Waves』でも密着されている。

その後、息子の愛丸くんが生まれ、家族3人で四国の四万十にも出かけた。

「景色のいい場所に車を停めて、車内のキッチンで料理をし、家族みんなで食卓を囲む時間が最高ですね。目が覚めたら美しい朝焼けといい波が目の前に現れた情景も目に焼き付いています。車が目立つので、興味津々で話しかけてくれる方たちとの出会いも嬉しいです」と、キャンパー旅の楽しさを語る。

数あるサーフボードの中から旅のバディとして選んだのは、ノーズライダー(9’10″)とピグ(9’4″)のログ2本、ミッドレングス(7’0″)、フッシュ(5’4″ 1/2″)、アシンメトリーボード(6’2″)、デュアルシングルフィン(6’4″)。加えてボディボードとサーフマット、足ヒレ、シュノーケルなど遊び道具も盛りだくさんだ。

「これだけあればスネヒザ〜トリプルオーバーまで、ほぼすべての波に対応できます。波に合わせてボードを選びサーフィンするのが僕の信条なので、1人でもこれだけのボードを積み込んじゃいます(笑)」。

また、料理上手な高貫さんの旅のマストアイテムは、圧力鍋と中華鍋だとか。基本的に玄米食なので圧力鍋は欠かせず、シンプルな食材でも炒め物が美味しくなるため中華鍋も重宝している。さらに、車内にはぬか床まで完備。旅先の直売所で野菜を購入してはぬか漬けにして、土地土地の産物を味わっている。

車の後方には、すでに中身がいっぱいになったビーチクリーン専用のゴミ袋とトングが置いてあった。旅先でも自分のホームのように落ちているゴミを拾って帰る。彼にとっては当たり前のマナーなのだ。

家族とサーフトリップ以上の経験を

昨年子供が生まれ、ライフスタイルが大きく変わった。これまで好きな時に海に入っていた自由な生活から、子どもが最優先の暮らしに。

「今までは自分の人生を生きるのに一生懸命でしたが、愛丸を授かったことで自分だけの人生ではなくなったような感覚があります。と同時に、自分が人生を楽しんでいる姿を子供に見せることが、教育と考えるようにもなりました」と高貫さん。

今後はこのキャンパーが家族の時間をより濃いものにしてくれるはず。どんな場所へ行き、どんな体験を期待しているのだろうか。

「北海道から沖縄まで、そして島も旅したいですね。特に北海道は広大で豊かな土地があり、波のポテンシャルも高そうなのでいろんな季節に時間をかけて旅したいです。個人的には日本の歴史にすごく興味があるので、神道や自然崇拝なども旅しながら学んでいきたいと思っています。
サーフィンは僕たちを色々なところに連れて行ってくれます。ただ海でサーフィンするだけでなく、その地の文化や歴史に触れる機会をもたらしてくれるので、海以外の時間も尊いものになります。自分の魂が日本に向いている今、バスで日本を旅するということは単に波を追いかけるサーフトリップ以上の経験をもたらしてくれています」

日本のアイデンティティをウェットスーツにも投影

高貫さんは昨年、ウェットスーツブランド『GREY LABEL』も立ち上げた。サーフィンへのアプローチを深めていくという人生の転換期に入ったと自覚した彼は“自分の価値観が反映されたウェットスーツが着たい”と考えたからだった。

これまで世界を旅した経験によって日本人であることへの誇りや特異性、美しさに気がつき、自身のウェットスーツデザインにそれを投影する。

日本古来の植物である麻の葉の家紋をプリントし、日本の伝統的な着物の紋付をモチーフにロゴの配置やカッティングを行った。実は7年間、国産のウェットスーツ製造に携わっていた経験もあるため、クオリティには自信があった。

「GREY LABELは、僕の歴史の一部として息づき始めたばかり。僕の人生の表現やサーファーとしての在り方に共感してくれた方たちに着てもらえたら嬉しいです。
サーフィンは上手い下手など問題じゃなく、どれだけ愛をもって波と、自然と向き合えるかだと思っています。そんな表現を僕はこれからも続けていきたいんです」

家族が増えて愛車も手に入れ、今までとはまた違った自由な暮らしが彼を待っている。

サーファーとして、表現者として、進化し続ける高貫佑麻さんのこれからのストーリーも楽しみだ。

Photo:Norihiro Takeda

(Alice Kazama)

blank

海とサーフィン、サステイナブルをテーマに、ライフスタイル・ファッション・カルチャーを提案する『大人の女性のためのビーチライフスタイル・マガジン』
https://honey-mag.jp/

この記事に 関連するタグ

※当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等を禁じます。