サーフィンの瞬間芸「ポップアップ」には上達のヒントがいっぱい隠れている。
YouTube で テイクオフ(ポップアップ)を分析しよう。
シリーズ「おいらはサーファーの味方」No. 32
サーフィンを学ぼうと思ったら、いちばんの教材は「サーフィンを生で見る」ことだ。海のなかで上手なサーファーたちのサーフィンは最高のお手本。
その次にすぐれた教材は「サーフィンの動画」を見ることだろう。動画は動きが分かるし、繰り返し見ることもできる。一時停止させて、テクニックの細かい分析や、コマ送りだって可能だ。
さて、ポップアップを特集したユーチューブの動画を発見した。サーフランチでのファウンダーズカップの試合をスローモーションで編集したものだ。製作したのはブレント・ローズ氏。望遠レンズをわざわざ借りてこのフッテージを撮影したという。CT選手たちが、同じ波でどんなふうにポップアップするかを比べて分析してみよう。
ポップアップの動画(下記URL)を見てから、テキストに進んだら理解しやすいと思います。(ジョディからウィルコまで見てください)
ジョーディ・スミス
ジョーディはCT選手のなかでもヘビーウェイト級。たしか90kg台じゃあなかったかな? 昔、彼のボードを見て、薄くて短くてびっくりしたことがある。体重のハンデキャップを補うために、彼がテイクオフのときに行っているのはダブルストロークだと映像を見てわかった。ダブルストロークはバタフライのように両手で同時にストロークすることだけど、ジョディはポップアップ直前(最後の一かき)にストロークをダブルでおこなっている。ダブルストロークは推進力がついて有効だが、練習が必要だ。
ポップアップの両手の位置は、平行ではなく、左手のほうが少しだけ前方(2~3cm)かな。また両膝(りょうひざ)で同時に立つというよりも、左の膝を重心にしてポップし、後足つまさきをパッドに置いてから、前足のスタンスを決めているように見える。そこが長身の体型でも、短いボードに乗ることができる技術かなと思う。
右足(後足)の立ち位置にも注目したい。ポップアップ直後に足はパッド前方にあり、しだいにテールに移動し、トップでカービングするときはテールエンドまで後退している。
ケリー・スレーター
ケリーのテイクオフの特徴は、ダブルストロークはしないで、両足を激しくキックしていること。キックも有効なテクニックで、推進力だけでなくテールを浮かせてサーフボードがプレーニングしやすくする効果もある。彼は両膝で同時にポップアップしている。
最初のターンで、後足がパッドのセンターへと移っていき、スタンスの微調整を行っているのが分かる。この微調整が、ケリーのいつものルーティンか、それとも前方に立ってしまったための調整かは分からない。でもワンターン後に、スタンスが完璧な位置に収まったというフィーリングが、こちらにも伝わってくる。
トップでカービングするときには、後足はテールエンドに移っているとは思うけど、そこまでのフッテージがカットされていて残念。
とにかく、ケリーのポップアップはシンプル&コンパクトの極み、他のCT選手と比べて、最も無駄が無いように感じられる。ほんのわずかな違いではあるのだけれど、その差は大きいと思う。
ジョン・ジョン・フローレンス
ジョンジョンのフッテージも短くてちょっと残念。ポップアップの特徴としては、両手をボードに置くときに、両肘(りょうひじ)をしっかりと胸のほうに引きつけている。さらに両膝を同時に使ってポップアップしている。
注目すべき点は、後足がパッドより前方にはみだし、しかもセンターよりも右に足を置いているところだ。でも、2ターン目にはボードのセンターへ移動させている。
スタンスを少しミスしたのか、それとも彼のいつものルーティンで、右のフィンの上に足を置いたのかは不明。もし波がそのままバレルになったとしたら、そのスタンスで正解だったかもしれないから、右側に後足を置いたのは、ジョンジョンのフロントのバレルに対応する癖(くせ)かもしれないなとも思える。いずれにしろ、スタンスの修正能力は早い。
カリッサ・ムーア
カリッサも、ジョーディ・スミスと同じくダブルストロークでパワフルにボードをプッシュしている。ポップアップは、両膝を少しずらし気味にして、前足を前方に出しているようだ。そこもジョーディと似ている。
2人とも、体重のハンデをダブルストロークと立ち方で補っているかもしれない。カリッサの後足は、ポップアップで立ったとときには、パッドのセンターに置いている。
ガブリエル・メディナ
メディナはCT選手のなかでもテイクオフが早いことで知られる。バックサイドでポップアップするメディナは、ダブルストロークもキックも使わず、太い両腕だけでシンプルにパドルしてテイクオフ。両膝を同時に使って、ポンと猫のようにお尻が高く持ち上がって立つところはさすがだ。
もし、レイトにテイクオフしても余裕だろうなと思わせる。後足はパッドのセンターに置かれ、ポップアップした瞬間、加速する準備は十分という感じ、しかも2ターン目にはテールエンドへ後足が達している。
ジョエル・パーキンソン
ジョエルもキックしてテイクオフ。ジョエルの特徴は、立ったときに後足がすでにテールエンドにあるところ。それが理由だろうと思うけど、ファーストターンはどの選手よりもきびきびしている。すべてのターンにメリハリがあり、まるで加速装置が付いているようだ。
ステファニー・ギルモア
この人のサーフィンがエレガントに見えるのは、クローズドでナローなスタンスが理由。立ったときのスタンスは狭いが、最初のターンで、後足がパッドの後方へと移っている。さらに大きくカービングするときは後足がテールエンドにあるから、ターンが軽そうに見えていてスプレーが飛ぶ。
加速するときはボードの前方にスタンスをとり、ターンのときにはテールエンドに後足を移すという、小刻みなスタンスの移動で、彼女のサーフィンが完成している。ターンの一つ一つにスタンスを微調整しているような感じさえする。
マット・ウィルキンソン
バックサイドの垂直リップが得意技のウィルコ。その特徴がテイクオフにはっきりと現れている。ポップアップしたときに、前足への荷重と前傾がハンパない。立ってすぐに後足はテールエンドにあり、いつでもリップへアグレッシブに当てられる状態が完成している。テイクオフにはキックとダブルストローク(若干)を利用している。ウィルコは、フロントとバックサイドではポップアップのルーティンがたぶん違うと思う。
まとめ
瞬間芸のポップアップは、極度な集中力が求められるから、考えている時間はなく「勘」に頼りがちだ。しかし改めて自分のやり方と、CT選手のやり方の「違い」を分析すると意外な盲点が発見できるかもしれない。
そのコンマ数秒の改善が、あなたのサーフィンのパフォーマンスを劇的に向上させ、新たなレベルへと導くきっかけとなるかもしれない。
ポップアップの動画をもう一度ご覧になりたい方は下記をクリック
Brent Rose氏の許可を得て映像を使用いたしました。
Video by Insta:@brentdangerrose
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(李リョウ)