サーファーが「波を予想する」ためには、日々の気象条件を把握し、実際に海を見て経験を積む必要がある。また、より高度な波予想をするには、一定の気象知識も必要だが、気象知識さえあれば、波を予想できるというわけではない。
本コラムでは、サーファー気象予報士である「Kazy」が、15年以上の波予報経験からなる統計知識と、それに基づく波予想のポイントを独自の切り口で紹介。定番のマニュアル知識とは異なる視点のテーマも含め、全10話でお届けします。
最初に
気象予報士と一般の“気象に詳しい方”で最も差があるのが、『大気の立体構造をイメージできるかどうか』です。
気象予報士試験はこの立体構造がイメージできないと実技試験は合格できません。
また、気象予報士として長年予報業務に従事している人はこの大気の立体構造の理解力がとても高いです。
サーフィンに関係する波、うねり、風などの気象要素の予測もこの大気の立体構造について把握しているか否かで差が付きます。前回数値予報モデルで最もサーフィン向けに使いやすいのは気象庁の情報で有ることを掲載しましたが、今回はその気象庁の情報を使ってどのように大気の立体構造をイメージするのかについて基本的なところをお伝えします。
大気は平面ではなく立体構造である
よく目にする天気図は平面のデータです。しかし、実際の大気は東西+南北+上下の運動(※空気が時間とともに位置がかわる)があります。
天気図に出ている低気圧、高気圧、台風などの擾乱(じょうらん=大気が乱れる現象)は平面で運動しているわけではなく立体的な運動があり、この運動エネルギーは保存力が作用し一定になる。これを力学的エネルギー保存の法則と言います。
地上天気図で低気圧のある所は風が中心に向かって集まり、行き場がなくなって上に向かいます。それが大気の上端である対流圏海面付近でまた行き場がなくなり、今後は周りに発散します。
これは基本であり、めちゃくちゃ大切な事なので是非マスターしてください。
立体構造を把握するための天気図
次に各高度ごとの運動を把握するために参考になる天気図を気象庁の命名規則で掲載します。
天気図は気象庁の数値予報モデルをもとに出力した大気の状態を図示化したものです。
下記の通り気象庁が出力している天気図&高層天気図は多岐に渡り、それだけで概ね大気の立体構造が把握できるようになっています。
大気全層 (対流圏界面~地面/海面) | ・高層断面図 |
大気上層 (0~500hpa) | ・アジア太平洋200hPa高度・気温・風・圏界面図 ・アジア500hPa・300hPa天気図 |
大気中層 (850hpa~500hpa) | ・アジア850hPa・700hPa天気図 ・極東500hPa・700hPa天気図 ・日本850hPa風・相当温位12・24・36・48時間予想図 ・極東850hPa気温・風、700hPa上昇流+極東500hPa気温、700hPa湿数12・24、36・48時間予想図 ・500hPa高度・渦度+極東地上気圧・降水量・海上風12・24、36・48、72時間予想図 |
地上 | ・速報天気図 ・アジア太平洋地上天気図 ・アジア太平洋海上悪天24時間予想図 ・アジア太平洋海上悪天48時間予想図 |
立体構造の把握に絶対欠かせない衛星画像
大気の立体構造把握に欠かせないのが衛星画像データです。
「なぜ衛星画像が欠かせないの?見る必要ある?」と思われる方も多いかもしれません。
実は衛星画像は “数値予報モデルで算出したデータ” や “過去に観測したデータ” ではなく、ほとんどリアルタイムで大気の生の状態を表しているという優れモノです。
1. 前述の立体構造のイメージの答え合わせとして
2. 数値予報モデルが出力したデータや天気図に現れていない擾乱の状態の把握
3. 数値予報モデルが出力したデータや天気図に現れているが実際とのわずかな違いの把握
こういったシーンでとても便利な情報になります。
例えば、
・ 台風になる前の風が起こしたうねりが入るタミングを見抜けた
・ 東海上にある高気圧からの発散(吹き出し)の風が実際は結構強いことを見抜けた
などです。
しかし、良いことばかりではなく悪いこともあります。それは見抜けるようになるためにはそれなりの経験が必要ということです。
今回は具体的な見方は割愛しますが、日頃から各天気図をもとに大気の立体構造をイメージして、衛星画像でその確認をする習慣が、この “見抜く力” になります。
これはどなたでも続けていると必ず身につきます。
気象庁では独自衛星により日本周辺に特化した衛星画像と全球レベルの衛星画像を公開して、それぞれ10分毎に(高頻度ではもっと短い時間間隔で)更新されています。日本周辺の衛星画像の使いやすさという意味では気象庁が公開している衛星画像が最高だという所以です。ぜひ活用してみてください。
今回のポイント
今回は大気の立体構造をどうイメージするのかについて、基本的なところをお伝えしました。
下記ポイントはサーフィン向けの波を読むための基本で、とても大切なポイントです。下記ポイントをもとに、継続的に大気の立体構造をイメージし、楽しくてたまらない「波の理解」につなげてみてください。
●低気圧や高気圧や台風は平面構造ではなく立体構造である。
●気象庁の数値予報モデルが出力した天気図にはたくさんの種類があり、大気の立体構造把握にとても便利である。
●高頻度で大気の生の状態を表しているのは衛星画像である。
次回からは、皆さんがもっとも馴染みのある「高気圧」や「低気圧」を基準とした波予想の知識をご紹介します。
第3回は、実際に私が多くのサーファーから質問をうけているお題のひとつである「高気圧のうねりを見抜く」をお届けします。
(Kazy)
【サーファー的気象学】
第1回:数値予報資料のトリセツ
第2回:大気の立体構造をイメージする
第3回:高気圧からのうねりを見抜く
第4回:うねりが入りやすい高気圧の位置
第5回:停滞前線上のメソ低気圧のうねり
第6回:低気圧の位置ごとの波予測
第7回:実践“低気圧のうねり”特集
第8回:台風の嘘ホント
第9回:教科書では教えてくれない台風のうねり
第10回:自然で波を読むって楽しい