重力と遠心力によって自然にレールが入るからこそ深いターンが可能となる。前足荷重による前傾姿勢は基本中の基本。Darren Turner photo by Ri Ryo

「レールが入ってないって」どういうことだ?⑤

シリーズ「おいらはサーファーの味方」⑪

さて、スタンスについて続けます。
ショートボードはテイクオフの回数を積めばスタンスはほぼ決まってくるといえるでしょう。ショートボードはスタンスを間違えると即ワイプアウトしてしまうからです。
正しいスタンスならば意識しなくても自然とレールは入りますが、誰もが正しいスタンスをとれているかは微妙なんですね。『ほぼ正しいスタンス』でサーフィンしているショートボーダーの多いこと!『ほぼ正しい』と『正しい』にはかなりの違いがあります。ショートボードのスタンスはセンシティブです。数センチでパフォーマンスに大きな違いが現われます。

ショートボードのスタンスで犯しやすいのは『センタースタンス』と呼ばれるミスです。これはサーフボードの中心に両足で立ってしまういわば悪い癖(くせ)です。
後ろ足はフィンの上に置かなければならないのに、ボードの中心に両足で立ってしまうこのスタンス。『センタースタンス』だと加速はできてもレールが自然に入らずスムースなターンは難しいんですね。ただしここで断っておきたいのは『センタースタンス』でもターンのときに後ろ足をテールに移動させることができれば、これは間違いでないどころか大正解のスタンスとなります。
誰もが天才と認めるトム・カレンは『センタースタンス』を巧みに利用してサーフボードを加速させたかと思うと、いつのまにかテールにスタンスが移動していて鮮やかにターンを決めます。つまり『センタースタンス』のままでターンをしようとするのが問題なのです。
(※注意『後ろ足をフィンの上』:トライフィンの場合は3つのフィンが作る三角形の中心)

なぜ『センタースタンス』になるか、二つ理由があります。一つは初心者のころからの癖が抜けないのです。初心者はバランスが安定するサーフボードの中心に立とうとします。そのフィーリングのままテイクオフを続けていると『センタースタンス』が癖となりいつまでも直りません。

-前足荷重はスタンスの基本

二つ目の理由は『前足荷重』ができていないからです。「でもな〜サーフボードの正しいスタンス(つまり前足が中央、後ろ足がテール)で立つとノーズが浮くんじゃあないかな〜」と悩むサーファーがいるかもしれませんが、ノーズは浮きません。前足にしっかりと荷重できていればノーズは浮かないんです。
この『前足荷重』のスタンスを例えると『やじろべえ』のような原理だといえます。前足が支点で、前かがみの上半身と後ろ足で前後のバランスが取られています。ところが『センタースタンス』の癖がついているサーファーは両足の中心に支点があります。『センタースタンス』は波が大きくなるとターンがしやすくなるという特徴(とくちょう)があります。
繰り返しますが『センタースタンス』は間違いではなくテイクオフからフィニッシュまで『センタースタンス』のままでいることに問題があるのです。
(注意:正しいスタンスでノーズが浮かないのは加速による揚力も関係しています)

『前足荷重』の良い例を挙げましょう。プロサーファーのロブ・マチャドです。
彼は舞うような軽いターンで有名ですが、それはしっかりした『前足荷重』でサーフィンをしているからです。後ろ足に荷重するのは必要なときに必要なだけで、ほとんど前足で立っていると言ってもいいくらいです。

この『前足に荷重』と聞いて、びっくりする人がいるかもしれませんが、『前足荷重』は重要です。ところがサーファーで『前足荷重』ができていてもそれを意識していない人が多いのです。
なぜでしょう?それは『前足荷重』に慣れてしまっているからです。『前足で体重を支えている』というフィーリングを感じていない。それと同じで『センタースタンス』の癖がついているサーファーも両足で均等にスタンスを取っている感覚に慣れてしまっています。だから『センタースタンス』の癖に気づいてもそれを修正できず、荷重を補おうとして極端に広いスタンスを取るサーファーもいます。

この『前足荷重』のフィーリングは、スノーボードを試してみると理解できます。スノーボードはサーフィン以上に前足荷重を求められるからです。後ろ足でスノーボードを自在に操る(自然にレールが入る)には『前足荷重』がマストなんです。スケートボードならば後ろ足をキックテールに置いてスラロームをすると分かります。
(注意:ショートボードも加速するときなどに意図してボードの前方に立つスタンスをとる場合があります。これは誤りではありません。)

ショートでもロングでもサーフボードの中心に立てば安定感は得られる。でもレールを自然に入れるためには加速とスタンスに工夫(くふう)が必要となる。Surfer:unknown photo by Ri Ryo

さて『レールが入ってないってどういうことだ』というテーマで進めてまいりましたが理解できたでしょうか?
総じて、レールは入れるものではなく重力と遠心力によって自然に入るもの、それにはスピードと前足荷重のスタンスが不可欠なのだということが理解いただければ大成功です。

つまり「レールが入っていない」と指摘され、どうやってレールを入れようかと悩むのではなく、正しいスタンスが取れているか?加速するにはどうしたら良いか?という課題を追求することによって、あなたのサーフィンはさらにステップアップしていくのです。

李リョウ

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