現在、オーストラリア南部に位置するグレートオーストラリア湾での大規模な石油掘削計画に対し、オーストラリア国内のサーファーが、パドルアウトによるアピール活動や、著名なプロサーファーたちが連名での公開書簡を提出するなど、大規模な反対運動を繰り広げている。
ノルウェーの石油大手エクイノール社による石油掘削計画
グレートオーストラリア湾はオーストラリア南部に位置する720マイルにおよぶ広大な湾で自然環境が素晴らしく、数多くのサーフポイントが点在する。英ガーディアン紙に寄稿した海洋生物の保護活動に詳しい海洋生物学者のリック・シュタイナー氏によるとグレートオーストラリア湾に生息する生物の85%が固有種であり、その地域の漁業、観光業および養殖業はオーストラリアの国家経済に何十億ドルという経済効果をもたらしている。
今回の掘削計画を打ち出しているのは、2018年には180憶ドルの収益を計上し、現在34ヵ国で事業を展開しているノルウェーの大手石油会社エクイノール社だ。 パタゴニア・オーストラリアによると、エクイノール社は、沿岸部から372kmほど離れた水深2,500mの海底から3000mほどの深さの油井の建設を計画している。計画予定地である南氷洋は南極からの強い海流や強風が吹き荒れる危険な水域として知られている。以前、英国のBP、そして米国のシェブロンも同じ水域で掘削計画を立てていたが、いずれも断念している。
原油流出時の被害想定は、マーガレットリバーやベルズにも
エクイノール社が提出した環境影響評価書によると、原油の流出事故が起こった場合に想定される被害は、最も被害の大きい場合で430万バレルの原油が流出すると想定されている。
「周辺に生息する何十万もの鳥、絶滅が懸念されているミナミセミクジラなどを含むシロナガスクジラ、シャチやイルカ、ニュージーランドオットセイ、オーストラリア南部や南西部周辺の固有種であるオーストラリアアシカなど、何千もの海洋哺乳類が大量死する可能性がある。」と、シュタイナー氏は警報を鳴らしている。被害はそれだけにとどまらず、グレートオーストラリア湾で暮らす多くの人々が携わる漁業や観光業にも甚大な影響を与えることになるだろう。
「多くのサーファーがグレートオーストラリア湾を守るための活動については知ってはいたけれど、実際にエクイノール社が原油流出時の被害想定を提出するまでは、事故が起こった場合に起こりうる被害の甚大さに気付いてはいませんでした」と話すのはプロロングボーダーで環境活動家でありパタゴニア大使を務めているベリンダ・バッグズ氏だ。
エクイノールの評価書によると、被害はサーフィンの世界大会が開催されているマーガレット・リバーやベルズ・ビーチを含めオーストラリア南部の全沿岸地域にわたり、東海岸のポート・マッコーリー、そしてタスマニア島までの広範囲にまで及ぶという。
プロサーファーも反対表明
先日の3月3日には、オーストラリア国内の何千というサーファーが海に出て油井の掘削計画への反対の意思をつきつけた。そして翌日には昨年世界2位でシーズンを終えたジュリアン・ウィルソン、7度の女子ワールドチャンピオンのステファニー・ギルモアや3度のワールドチャンピオンミック・ファニングなどの多くの著名なプロサーファーたちが連名で公開書簡を発表し、「グレートオーストラリア湾は人間が手を触れていない貴重な自然であり、そのままにしておくべきです」と、掘削計画への反対を表明している。
NOPSEMA(国家海洋石油安全環境管理庁)は2月19日から3月20日までの1ヶ月間、エクイノール社の油井掘削計画についてのパブリックコメントを受け付けており、エクイノール社はそのパブリックコメントに対する回答をNOPSEMAに提出する義務がある。その回答によって、安全管理や規制を管理するNOPSEMAが掘削計画への承認を検討することになる。
「今、私たちができる最も重要なことはエクイノール社の環境保全計画について意見を述べることです。また、市民の声を届け世論の圧力によって政府を動かすことも大切です。みんなで海に出て声を上げることが私たちサーファーのやり方です。」バッグズ氏によるとこれまでにおよそ5000人のサーファーが国内10ヵ所で反対運動に参加している。今後もパブリックコメントの締切日までの数週間、各地でパドルアウトが予定されている。
パブリックコメントは、NPSEMAのウェブサイトにて3月20日まで受け付けている。
(ケン・ロウズ)