Image: Red Bull(YouTube)

ウェーブプールは海の代替となるか?ミック・ファニングとジェイミー・オブライエンが討論

2010年にスペインのウェーブガーデンでのCT選手のテスト風景が公開されてから本格的に注目を集めるようになったウェーブプール。
特に2015年の年末にケリー・スレーター自身が披露したウェーブプール「サーフランチ」でのバレルライドは衝撃的だった。

ご存知の通り、ウェーブガーデン以前からウェーブプールは存在しており、その歴史を振り返るとサーフィン用のウェーブプールの元祖は日本という驚くべき事実もあるが、実際に海の代わりになるようなクオリティーが高い施設が誕生したのは、ここ数年のこと。

ウェーブガーデンの創設者であるジョゼマ・オドリオゾラでさえ、ウェーブプールの存在がこれほど大きくなるとは想像もしていなかったそうだ。

砂漠の真ん中でも東京の中心地でもサーフィンが楽しめるウェーブプール。
このような地域に住むサーファーにとってまさに夢のようなシステムだが、実際にウェーブプールを体験したサーファーによるとパドルして波を待ってキャッチするような海でのサーフィンの気分にはなれないという意見が多い。

ウェーブプールは新しい世界を切り拓き、海の代替となるのか?
それともサーフィンの’ソウル’を潰してしまう異物なのか?

コンペティターとフリーサーファーの頂点に立ったミック・ファニング&JOBことジェイミー・オブライエンがその未来についてリモートで討論した。

ウェーブプールの可能性

(ミック@サーフランチ)
PHOTO:© WSL

「ウェーブプールは常に同じ波が来る。対して海は二度と同じ波が来ない。ウェーブプールは退屈だけど、トレーニングツールとしては最高だよね。5年、10年先にどうなるか想像することしかできないけど、サーファー達は様々な場所を選ぶようになるのかもね」
ミック・ファニング

「テキサスのウェーブプールWacoにはサーフコミュニティが出来上がっているよ。まさかそんなことになるとは思わなかったね。あそこで入っている子供の中には海でサーフィンしたことがないのに、ウェーブプールですでに凄いエアーをする子もいるんだ。俺なんて数年かかったのに。中国のウェーブプールでは何が起こっているのだろう? 多分、あそこで一日中サーフィンをしてツアーに入る奴も出てくるかもね。’あいつはどこ出身だ?’なんてことにもなりかねないな」
ジェイミー・オブライエン

コンテストの会場としてのウェーブプール

すでに2018年からサーフランチがCTの会場となり、ウェーブプールでのコンテストに対する論議も幾度となく行われている。

好きなアスリートを間近で見られることや、オリンピックを始めとした期間が決まっているコンテストに合うなどの利点があるが、現状では賛否両論、真っ二つだ。

「何故か分からないけど、個人的には少し退屈に感じるね。同じ波の繰り返しだからかな」
ミック・ファニング

「ウェーブプールでコンテスト。一年や数年毎に違うプールに変えてやれば面白くなると思うね」
ジェイミー・オブライエン

自然とウェーブプールの大きな違い

(JOB@パイプライン)
PHOTO:© WSL / Cestari

自然とウェーブプールでのサーフィンの大きな違いは、精神面と身体的の二つがあげられる。

「プレッシャーに関してはウェーブプールでもあるけど、海とは少し違うと思う。この波で失敗してはいけないという気持ちかな。海ではウェーブプールと違ってミスすれば次に波に乗れるのは20分後かもしれないしね。ウェーブプールではパドルする時間が短いか、歩いてテイクオフの場所までいける。腕力が必要ないんだ。変わりに下半身の強さが重要になってくる。何度も繰り返し波に乗ることになるからね。特に脚への負担が大きくなるよ。一方、海で一日中サーフィンするなら腕力が一番重要なんだ」
ミック・ファニング

「強烈な波のウェーブプールで次から次にミスすると嫌になってしまう…。時に嫌なワイプアウトをすることもあるよ。コンクリートに叩きつけられるのは、自然のリーフブレイクと同じでちょっと怖いんだ。変な気分さ」
ジェイミー・オブライエン

(ミック@ポルトガル)
PHOTO:© WSL / Masurel

「海とウェーブプールとでは達成感が違うね。自分の感覚だと海で完璧な波に乗った時、それは何ものにも代え難い感じさ」
ミック・ファニング

「母なる自然からは何を得られるか分からない。それが良い波に乗った時に得る満足感を増す要因だと思うよ。ウェーブプールでは最初から自分が何をするか明確なんだ。バレルに入るためにプールに行って素晴らしい時間を過ごす。波から僅か3m離れた場所で昼食を食べることもできるしね」
ジェイミー・オブライエン

「ウェーブプールでも素晴らしい気分を味わうことができるけど、それは機械で製造されたものでしょ?」
ミック・ファニング

(大のウェーブプールフリークでもあるJOB)
Image: Jamie O’Brien (YouTube)

初心者からエキスパートまで楽しめるウェーブプール。
そこはただ波に乗る場所ではなく、スケートボードパークのようなコミュニケーションの場にもなる。
効率の良いトレーニングが可能になり、貸切にして友人や家族と楽しむなど自然とは違うサーフィンの楽しみ方が出来るのだ。

「海ではみんなもっと波に乗りたいという気持ちが強く、そこには嫉妬心も生まれるよね」
ミック・ファニング

「ウェーブプールはただ楽しい。サーフィンのシリアスな部分を奪ってしまうようだよ。プールの隣に部屋を借りることも可能だし、ノースショアのように冬のウネリを狙って沢山の人が集まるようなこともない。良い波に乗るために数日だけ滞在して家に帰ることも出来る。それって最高に幸せだよね」
ジェイミー・オブライエン

ウェーブプールの未来

(韓国にオープンしたウェーブガーデンは初心者でもロングボードでも用途に合わせて変化が可能) Image: Red Bull(YouTube)

すでに世界中でサーファーを感動させているウェーブプールだが、今後は技術の発展により更に進化する可能性がある。

「もっと大きなサイズでバラエティがある波になれば最高だよね。その変化をボタン一つで変えられるのが理想的さ」
ミック・ファニング

「完璧な波。オーバーヘッド。大きなバレルとスピット。更にウェッジになってエアーセクションもある。絶対に可能だよね。凄いのは数え切れないほどの種類の波を作れる技術を持っているってこと。あとは時間の問題さ」
ジェイミー・オブライエン

ウェーブプールを取り巻く環境問題

環境問題に関心が生まれる海でのサーフィンと違い、ウェーププールは環境問題とはかけ離れ、昨今世界中で言われている’持続可能’は難しいと思われる。
特に砂漠に大きなウェープブールを建設することを想像すると….。

しかし、ウェーププールを建設、運営する多くの企業はできるだけ効率的で環境に優しいものにしようと努力している。
例えば、イギリス・ウェールズにあるサーフスノードニアは近くの発電所からの水をリサイクルしてプールの水として利用。
他のウェーププールでは、再生エネルギーとして波を生み出したり、プールから蒸発する水を波の形を変えることで最後の一滴まで節約できるようにしている。

「海や陸に関わらず、私たちはこの地球の環境を次の世代に引き継ぐために環境に配慮して保全しなければいけないと思うよ」
ミック・ファニング

ウェーププールはタイミングを合わせてパドルアウトして波を捕まえるような海でのサーフィンとイメージは異なるが、サーフィンを始めるきっかけになったり、場所的に難しかった地域にサーフィンをもたらしたりと利点がある。

あなたが次世代のウェーブプールでサーフィンしたことがあるとする。
もし、永遠に海とウェーブプールのどちらかでサーフィンしなければいけないと迫られたら、どちらを選ぶだろう?

(空海)

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