2021年から始まる「国連海洋科学の10年」に際して2030年までに海の30%を保護区に指定する(30X30)動きが始動、WSLもそれに関連してWe Are One Oceanキャンペーンを発表し、署名運動を展開している。
だれもが海を守ることが大切だとわかっているが、WSLのキャンペーンに対して批判的な声も出ている。保護区では乱獲の対策だけでなく、漁業が全面的に禁止されれば、漁師やアングラー(釣り人)などが職を失い、食料もとれなくなってしまう。釣りやスペアフィッシングなど一部の海の利用者がこのキャンペーンの影響で大きな打撃を受けることを危惧し、WSLにキャンペーンの一時中断を求めている。
4600万人の釣り人の声はどこへ?
60年にわたりアメリカのアングラーを支えてきた釣り具会社AFTCO(American Fishing Tackle Company)が、日本の釣り具大手シマノやダイワといった釣り業界の大企業を代表してWSLに向けた共同の書簡を発表した。
海の保護を基本とするキャンペーンの方針には賛同しながらも、釣り人への考慮を欠ける内容を批判。
プラスチック汚染、海の酸性化、生物多様性、淡水流出や世界の漁船団の規制に対するキャンペーンは最重要課題であることを認めながらも、生物多様性を守るための対策には利害関係者の参加が不可欠であり、保護区の在り方について話し合い、WSLのキャンペーンに釣り人の意見や要望を取り入れるよう求めている。
「アメリカには4600万人のアングラーがいて、なぜ彼らの声を拾わなかったのだろうか。感情的に漁業に対して設けた海の利用規制はいつの日かサーフィンなどの活動に対する制限にも広まるかもしれない。それぞれ違う形で海洋資源とかかわっているが、健康的な海がないと困るのは一緒。We Are One Oceanキャンペーンが海洋資源を守りながら利用できる方法を一緒に追求することを願っている。」-AFTCO書簡より
WSLが一部訂正
この要望を受けてWSLは、InstagramやWe Are One Oceanのサイトで「公海の保護を最優先とし、環境への影響を抑えた漁が可能なMPA(Marine Protected Areas=海洋保護区)の制定を支持する」という注意書きを追加して、釣り人への配慮を示している。しかし、請願の文面は「全世界の海の30パーセントを完全かつ強力に保護するという目標」のままになっている。
全面的な禁漁への不安が残る
AFTCO会長ビル・シェッド氏が自社のブログでWSLの署名の問題点を詳しく綴った。「WSLが追加した訂正は良いが、まだまだあいまいすぎる。この請願に署名したことで全面的な禁漁の指定を求める活動に使われないだろうか?」
その懸念の背景には以前Surfrider Foundation(アメリカ本部)が、他のMPAを完全な禁漁区とすることを強く求めていた過去がある。
合理的な規制で海は十分守れる
AFTCOのシェッド氏は、アングラーは昔から海の管理人としての役割を果たしてきたと言う。外洋で他国の船団が乱獲することは管理できず、それに関してはWe Are One Oceanの姿勢に同意するが、アメリカ近海の漁場では合理的な規制や対策により10年前に比べて多くの魚類の状況が改善されている。
釣り人コミュニティーはこれまでに禁漁期、漁獲高やサイズ制限、破壊的行為や道具の排除などの対策を用いて、多くの近海漁場の保護と再生を実現した実績があり、持続的に管理できるようライセンス費など10億ドル以上貢献している。(AFTCOも会社の利益の10%以上を漁場の保護など持続可能な漁業のために寄付している。)
「MPAを作るときに最初に問われるのは、何から守るのか。場合によっては商業的漁業を規制する必要がある。しかし、親子が釣り竿で一本釣りすることを禁止しても効果はない。産卵期など、禁漁期を設ける必要がある場合もあるが、全面的な禁漁までは不要な場合が多い。」-AFTCO会長 ビル・シェッド
CJホブグッド「サーファーと漁師の間に亀裂を作ってしまっている」
サーファーの中でも釣りを楽しむ人は少なくはないだろう。元CT選手で2001年のワールドチャンピオンCJホブグッドは、自身のInstagramで以下のように呼び掛けている。
「私はいつも人々をつなげることを願ってきた。(WSLのキャンペーンの)中身をよくわからずに署名したことで、サーファーと漁師との間に分裂が生じてしまった。2つの主な海の利用者を含めて、話し合って、一緒に合意できる要望を政府に届けよう」-2001年ワールドチャンピオン、CJホブグッド
キャンペーンの狙い通り、海の30%が「完全かつ強力に保護された」MPAに指定されたら、確かに多くの漁師だけでなく、趣味として釣りを楽しんだり、日々の食料を海から得ている多くの人にとっては大きな打撃だろう。
サーファーとしての立場を守りながら、他の海の利用者の意見も取り入れて、合理的で効果がある対策を編み出せるか今後も注目されるだろう。
ケン・ロウズ