パリ五輪組織委員会は、フランス領ポリネシア政府などと連名で、来年のパリ五輪でのサーフィン競技会場は、当初の予定通りタヒチ・チョープーで行うと発表した。
五輪開催にあたり、チョープーでは、ジャッジ用の高さ14メートルのアルミ製タワー設置計画が浮上。地元サーファーらは、計画が海底のサンゴを破壊し、海の生態系や地元の人々の暮らし、波の質に影響を及ぼすとして反対。賛同のオンライン署名は16万筆に上り、抗議デモも行われた。
ポリネシア領のモエタイ・ブロテルソン大統領は、タヒチ内の別のビーチブレイクも会場候補に挙げていたが、組織委は、規模を当初の計画から縮小した上で新タワーを建て、チョープーで開催すると明言した。
チョープー決定の4条件
今回、会場を変更せずチョープーでの五輪開催を改めて示すにあたり、組織委は熟慮した4つのプライオリティを公表。
- チョープーに脚光を
五輪での最高水準のコンペを保証し、かつ、アイコニックなチョープーの波とフランス領ポリネシアとその文化に世界的なスポットライトを当てるため、チョープーでの開催は、組織委、国、関係自治体、ISAの悲願である。
- 類を見ないチョープーの自然環境
チョープーの自然保護は優先事項であり、チョープーでのすべての開発計画は環境への影響を最小限にするよう検討されてきた。
- 安全基準を満たすタワー
今後、五輪でも他のコンペでも、チョープーでサーフィンイベントを行うならば、新たなタワーが必要。また、審判が波全体が見渡せるようなタワーでなければならない。
- 未来へのレガシー
今後も長くチョープーでタヒチ・プロを開催することはポリネシア政府、五輪組織委の優先事項。タワーの計画はそれを実現するものでなければならない。
上記の4条件を満たすため、組織委とポリネシア政府などは、複数のオプションについて検討を重ねた。
既存の木製タワーは腐食し危険
まず、これまでWSLの大会で使われてきた既存の木製タワーやその土台の活用について、組織委は「たとえ改築をしたとしても使用は不可能」と結論。「タワーは20年以上前に建てられて腐食が進み、作業員や選手、審判やジャーナリストを危険にさらす」と説明した。
また、木製タワーの土台を強化して使う案についても「現行の安全基準を満たすには、新タワー計画より多量のコンクリートが必要となる上、長年にわたって既存の土台上に形成されたサンゴを破壊することになり、よりサンゴが少ないエリアに計画する新タワーよりダメージが大きくなる」としている。
また、アルミ製ではなく新たな木製タワーを新設する計画も検討したが、「来年の五輪開催までのプロジェクト完了は不可能」と判断。また、「コストはアルミ製タワーより上昇する上、アルミ製は天候や海における摩耗や損傷への耐久性があり、軽量なため、今後も各イベントでの組み立て、解体が容易になる」と、アルミ製の利点を強調した。
ボート上でのジャッジも不可能
ボートを浮かべてジャッジが可能かについて。チョープーの波は海岸から750メートル沖で割れるため、岸からのジャッジもテレビ中継も困難だ。ボートをポイントのそばで停泊させれば、全選手のパフォーマンスをよい角度で適切に観察することは不可能という。また、ラグーンにボートを浮かべた場合は、波に視界が遮られる上、大きなうねりでは安全が確保できず、また、ボートがサンゴを傷つける可能性がある。
組織委のリリースでは、ポリネシア大統領が言及した、タヒチ内のビーチブレイクでの開催についての検討は言及がなかった。チョープーで五輪を行うという大前提のもと、全体の議論がなされたとみられる。
新タワー計画で5トン軽量化
結果、組織委と地元政府は、新タワー建設以外に選択肢はないと判断し、従前の計画より規模を縮小した新たな計画を提示した。
新タワー計画の主な変更点
・表面積は50平方メートル以内
・重さは当初計画の14トンから9トンに減少
・五輪期間中のタワー利用者数を、40人からWSLの試合と同じ25~50人に制限
・光ファイバーと電気は五輪後に撤去可能なラグーン下を通すケーブルを採用
・水道管、汚水管を撤去
・環境問題の専門家や地元の団体が建設現場をモニターできるよう対策を強化
・水深20センチでもサンゴを傷つけない小型の駆動式はしけを利用し設備を運搬
・掘削には、長年ポリネシアで自然に優しいアンカーの設置で使われてきた工具を使用
組織委は新タワーが「サイズも重さも減り、新たな永久的な土台の上に作られる。長年にわたって耐久性があり、チョープーで開かれる将来のスポーツイベントを可能にする」と強調した。
最後に、組織委とポリネシア政府などは「関係自治体、環境保護団体、地元のサーファーコミュニティとともに、五輪がタヒチとその人々にとって成功となるよう対話と透明性を追求し続ける」と明言。
来年1月から、五輪インフォメーション・オフィスを開設し、月に一度の公開ミーティングを開いて、疑問に答えていくという。
(沢田千秋)
▼パリ五輪サーフィン特設ページ