サーフィン界の世界遺産と言われる「世界サーフィン保護区(World Surf Reserves)」にメキシコのプエルト・エスコンディードが選出された。「メキシコのパイプライン」と呼ばれるバレルが特徴で、多様な海洋生物が生息するが、下水の流入などによる生態系の危機に団結して立ち上がる地元住民らの努力も評価された。
WSRは中南米、オーストラリア、欧州で計13カ所が認定されてきたが、アジアではまだない。日本では千葉県一宮町が、東京五輪の開催地としてのレガシーを掲げ、保護区認定を目指し活動中。来年度の申請を予定している。プエルト・エスコンディードは今秋にも正式に認定される見通し。
世界サーフィン保護区一覧
- 2009年 マリブ(米国)
- 2010年 マンリー(オーストラリア)
- 2011年 エリセイラ(ポルトガル)
- 2012年 サンタクルズ(米国)
- 2013年 ワンチャコ(ペルー)
- 2014年 バイア・デ・トドス・サントス(メキシコ)
- 2016年 ゴールドコースト(オーストラリア)
- 2017年 プンタ・デ・ロボス(チリ)
- 2019年 グアルダ・ド・エンバウ(ブラジル)
- 2020年 ヌーサ(オーストラリア)
- 2022年 プラヤ・エルモサ(コスタリカ)
- 2023年 ノース・デボン(英国)
- 2024年 オリエンテ・サルバ(エルサルバドル)
- 2025年 プエルト・エスコンディード(メキシコ)
セーブ・ザ・ウェーブズが認定
WSRを選出する非営利団体「セーブ・ザ・ウェーブズ」(米カリフォルニア州サンタクルーズ)は、「世界中のサーフエコシステムの保護」を使命にWSR認定を行っている。「波を守ることは、サーフィン以上のこと」と提唱する同団体。独自の調査によると、世界のトップサーフスポットの約90%が生物多様性の世界的なホットスポットと重なっているという。その上で、「サーフスポットの生態系を維持することは、海洋生息地を保護し、波の完全性を維持し、地元の生活を守ることになる」としている。単に、サーフスポットのブレイクを守ることだけがWSRの目的ではないのだ。
1960年代からサーファーに人気
プエルト・エスコンディードはメキシコ南部の太平洋に面した港町で、スペイン語で「隠れた港」を意味する。かつて、海賊の船から逃げ出した女性が、泳いで上陸し身を隠した逸話に由来するという。1930年代までは飲料水がないため住宅はなかったが、1960年代、優れた波を見つけたサーファーらによって人気が高まり、次第に発展した。
メインビーチのシカテラを含む約10kmに渡る海岸線は、世界有数のビーチブレイクで知られ、陸上、海上ともに多数の野生生物が存在。ウミガメの重要な生息地でもあり、自然のままの砂浜やマングローブが残っている。
セーブ・ザ・ウェーブズは、プエルト・エスコンディードの選出理由として「典型的なサーフィンの生態系、信じられないほどの世界クラスの波、重要な生態系を備えた生物多様性のある環境、そして愛する場所を守ろうとする意志と能力の団結したコミュニティ」(ニック・ストロング・クベティッチCEO)を挙げた。
汚染や開発の脅威に立ち上がったローカル
プエルト・エスコンディードのビーチは、近年、不適切な下水インフラによる汚染、海岸の侵食、港の拡張、開発などで脅威に直面しているという。複数の団体が立ち上がり、連携、団結し保護運動を展開。今回選定されたビーチの一部、生態学的にセンシティブな地域での開発許可が禁止されるなどの成果があった。WSRの認定が、これらの運動にさらに大きな力を与えることは間違いないだろう。
他方、千葉県一宮町は、昨年11月からWSR認定に向けた活動を開始。町民らを集めた魅力発表会で、まずは町の魅力を語り合い、今年に入ってからは、町の生態系や文化、歴史に特化したワークショップを開催。馬淵昌也町長は「サーフィン保護区申請にあたり、一番弱かったコミュニティの呼応の部分がじょじょに形成されてきている」と、手応えを感じている。これまでのイベントでは、毎回、ほぼ満席となるほど、多くの町民らが詰めかけ、保護区申請へ向けた機運の醸成が図られている。
(沢田千秋)